非常用トイレを備蓄しないとどうなる?過去の災害事例から学ぶ

非常用トイレを備蓄しないとどうなるのかを過去の災害事例から解説したイメージ

防災用品を見直すとき、水や食料は思い浮かんでも、トイレは後回しになりがちです。「なんとかなるだろう」と考える方も少なくありません。

過去の災害では、地域によって断水や下水道の使用制限が長期化した事例があります。この記事では、公的機関の資料をもとに、非常用トイレの備蓄がない場合にどのような対応が必要になるのかを整理します。読み終える頃には、ご家庭に必要な回数が具体的な数字で見えているはずです。

結論:水洗トイレを使えない状況に備え、代替手段を用意する

非常用トイレを備えていない場合に最初に起こるのは、「自宅の水洗トイレが使えないのに、排泄は待ってくれない」という状況です。

水洗トイレは給水だけでなく排水設備も必要です。断水、下水道・排水管の損傷、建物設備の停止などによって、通常どおり使用できない場合があります。しかも地震では、上水道と下水道が同時に被害を受けることがあります。

経済産業省は成人の平均排泄回数を1日5回とし、1人35回分/週の災害時用トイレ備蓄を案内しています。4人家族なら、1日で20回。これが翌日も、その翌日も続きます。

ポイント
停電時の影響は建物の給排水設備方式によって異なります。マンションでは管理会社・管理組合等の案内も確認してください。集合住宅特有の注意点はマンションで断水したらトイレはどうする?で詳しく解説しています。

避難所でもトイレをすぐ十分に確保できるとは限らない

もうひとつ見落とされやすいのが、避難所のトイレも無条件では使えないという点です。避難所の既設トイレも被害状況によって使用できない場合があります。また、東日本大震災では仮設トイレが避難所に行き渡るまで4日以上を要した自治体が66%でした。

自宅と周辺の安全を確認したうえで在宅避難する場合も、ライフライン停止に備えた家庭のトイレ備蓄が必要です。

過去の災害では、実際に何が起きたのか

ここからは、公的機関が公表した記録をもとに見ていきます。数字を知ると、必要な備蓄量の感覚がつかみやすくなります。

東日本大震災(2011年):仮設トイレが届くまで、平均以上に時間がかかった

厚生労働省の追跡調査によると、東日本大震災による断水は19都道県・264水道事業者で約257万戸にのぼりました。

問題は、その間のトイレです。内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」には、被災地の避難所に仮設トイレが行き渡るまでに要した日数の調査結果が掲載されています。

  • 3日以内と回答した自治体は34%
  • 残る約3分の2は4日以上を要した
  • 最も日数を要した自治体は65日

この調査は岩手・宮城・福島の特定被災地方公共団体への回答に基づくもので、全国の災害にそのまま当てはめることはできません。ただし、仮設トイレが短期間で十分に届くとは限らないことを示す事例です。

熊本地震(2016年):断水が2週間続いた市街地もあった

厚生労働省の資料によれば、熊本地震での断水は34市町村・445,857戸が最大値でした。熊本市全域で水道水が供給可能になったのは4月30日、被災地全域の復旧率が99.9%に達したのは5月20日です。

注目したいのは、被害が大きかった地域では建物が無事でも水だけが止まった、というケースが多かったことです。家は住める。けれどトイレは流せない。この「在宅避難でのトイレ問題」が広く認識されたのが熊本地震でした。

能登半島地震(2024年):応急復旧まで約5か月かかった地域があった

国土交通省の資料によると、令和6年能登半島地震では6県38事業者で最大約13.6万戸が断水しました。

特徴は、復旧までの期間です。石川県では、輪島市・珠洲市の建物倒壊地域等を除いて水道本管の応急復旧が完了したのは2024年5月31日。発災は1月1日ですから、およそ5か月です。浄水場そのものが被災し、道路の寸断で復旧作業も進みにくいという条件が重なりました。

災害 断水規模 復旧に関する記録
阪神・淡路大震災(1995年) 約130万戸 最大断水日数90日
東日本大震災(2011年) 約257万戸(19都道県) 仮設トイレが3日以内に行き渡った自治体は34%、最長65日
熊本地震(2016年) 445,857戸(34市町村) 被災地全域の復旧率99.9%は5月20日時点
能登半島地震(2024年) 最大約13.6万戸(6県38事業者) 石川県の水道本管応急復旧完了は5月31日(一部地域を除く)

これらは災害・地域ごとの事例であり、すべての断水が長期化するわけではありません。一方で、復旧時期を事前に確定できない以上、一定期間を自力で対応できる備蓄を考えておく必要があります。

備蓄がない場合に考えておきたい5つの課題

トイレが使えない状態が続くと、家庭内では次のような問題が連鎖的に起こります。内閣府のガイドラインでも指摘されている内容です。

1. 水分や食事を控えてしまう

内閣府のガイドラインは、トイレの使用がためらわれることで排泄を我慢し、それが水分や食品の摂取を控えることにつながると指摘しています。そして避難者の栄養状態の悪化や脱水症状、静脈血栓塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)などにつながりうる、とされています。

健康への影響は個人の状態によって異なります。健康への影響については災害時にトイレを我慢するとどうなる?で詳しく整理しています。

2. 便器に溜め続けてしまう

排水設備の安全を確認できないまま水洗トイレを使用することは避けてください。下水道が損傷している場合、無理に水を流すと汚水が逆流することもあります。地震直後にまず確認すべきことは地震でトイレが使えないときの対処法にまとめました。

3. 臭いが室内にこもる

使用済み便袋は回収まで一時保管が必要になる場合があります。臭い対策は、製品の使用方法、便袋の密閉、処理袋、一時保管環境などを組み合わせて考えます。対策は非常用トイレの臭い対策で解説しています。

4. ごみとして出せない期間が続く

災害時は通常どおりのごみ収集が行われない場合があります。使用済み便袋の回収方法が確認できるまで、一時保管を想定しておきます。保管方法と処分の考え方は非常用トイレの正しい処分方法を参考にしてください。

5. 家族の負担が偏る

家族それぞれの年齢・身体状況・介助の有無によって、必要な排泄環境は異なります。実際、災害時に困ったこととしてトイレは上位に挙げられ続けています。災害時に困ったことランキングもあわせてご覧ください。

どのくらい備えれば足りるのか

経済産業省は、成人の平均排泄回数を1日5回とし、1人あたり5回×7日=35回分/週のトイレ備蓄を案内しています。

計算式はシンプルです。

必要回数の計算式
1日5回 × 家族の人数 × 備える日数

家族人数 1日分 3日分 7日分
1人 5回分 15回分 35回分
2人 10回分 30回分 70回分
3人 15回分 45回分 105回分
4人 20回分 60回分 140回分

7日分を基準に必要回数を確認
東日本大震災では仮設トイレが3日以内に行き渡ったと回答した自治体は34%でした。経済産業省の現在の案内である1人35回分/週を基準に、家族人数から必要回数を確認してください。

備えるなら、どんな非常用トイレを選ぶか

回数が決まったら、次は中身です。同じ「非常用トイレ」でも、備蓄用として使いやすいかどうかは構成で変わります。確認したい項目を整理しました。

チェック項目 なぜ重要か 確認の目安
保存期間 買い替え頻度と管理の手間が変わる 長期保存タイプなら入れ替え回数を減らせる
凝固剤の性能 固まらないと持ち運びも保管も難しくなる 吸水量・凝固性能と試験条件を確認
防臭・抗菌 室内保管が前提になるため 機能の有無に加え、対象・試験情報を確認
処理袋の有無 使用済みの袋をまとめて保管するため 排泄袋とは別に処理袋が付属するか
使いやすさ 暗い中でも家族の誰もが使えるか 家族が製品の使用手順を実行できるか
保管性 置き場所が確保できないと備蓄が続かない 箱サイズと収納場所の相性

選び方の考え方は非常用トイレの選び方、保存期間の考え方は非常用トイレの保存期間で詳しく解説しています。実際の使用手順は非常用トイレの使い方をご覧ください。

今日からできる備え

すべてを一度に揃える必要はありません。まずは現状を把握するところからで大丈夫です。

  • 家族の人数を数える:同居している人数を書き出します
  • 必要回数を計算する:1日5回 × 人数 × 7日で、目標回数が出ます
  • 今ある回数を確認する:手持ちの非常用トイレの回数を数え、不足分を把握します
  • 保管場所を決める:メーカー指定の保管条件を守れ、災害時に取り出せる場所へ
  • 使い方を家族で共有する:一度、封を開けずに手順を読み合わせておきます
  • 使用済み便袋の一時保管場所も考える:集合住宅では共用部へ自己判断で置かず、自治体・管理会社等の案内も確認します

ご家族の人数に合った備えを

経済産業省は1人35回分/週を案内しています。IPIC SONAEでは非常用トイレをご用意しています。ご家庭の人数から必要な回数を確認してみてください。

非常用トイレを見る

よくある質問

Q. 非常用トイレがなくても、何とかなりませんか?

自治体が災害時の応急的なトイレ方法を案内している場合は、その手順を優先してください。新聞紙などを使った自己流の方法を全国共通の代替手段として推奨せず、平常時から使用方法が示された携帯トイレ等を備えておくことが基本です。

Q. 断水していても、水を汲んでくれば流せますか?

下水道や排水管が損傷している場合、水を流すと汚水が逆流したり、階下へ漏れたりする恐れがあります。地震のあとは、自治体や管理会社から下水道の使用可否について案内が出るまで、水を流す判断は控えてください。判断の手順は地震でトイレが使えないときの対処法にまとめています。

Q. 携帯トイレは何回分あればいいですか?

経済産業省は1人あたり35回分/週を推奨しています。4人家族なら140回分が7日分の目安です。現在の備蓄数と35回分/週の基準との差を確認し、不足分を計画的に追加してください。

Q. 避難所に行けばトイレはありますか?

避難所の既設トイレも被害状況によって使用できない場合があります。東日本大震災の調査では、仮設トイレが行き渡るまで4日以上を要した自治体が66%でした。避難所の運営ルールに従い、家庭でも災害時用トイレを備蓄しておきましょう。

Q. 非常用トイレは何年くらい保存できますか?

保存期間・期限の起点・保管条件は製品によって異なります。パッケージやメーカー公式情報を確認してください。詳しくは非常用トイレの保存期間をご確認ください。

Q. マンションでも備蓄は必要ですか?

集合住宅でも備蓄を検討してください。停電時の影響や給排水設備の使用可否は建物の設備方式によって異なります。詳しくはマンションで断水したらトイレはどうする?をご覧ください。

Q. 備蓄したあと、何を確認しておけばいいですか?

保管場所を家族全員が知っていること、そして使い方を一度読んでおくことの2点です。平常時に使用手順、保管場所、必要回数、使用済み便袋の一時保管方法まで家族で確認しておきましょう。

まとめ

非常用トイレを備蓄していない場合、断水が起きた時点で「排泄という毎日必ず起こることに、行き場がなくなる」という状況になります。

過去の災害では、地域によって断水やトイレ設備の復旧に長い期間を要した事例があります。東日本大震災では仮設トイレが3日以内に行き渡った自治体は34%、能登半島地震では水道本管の応急復旧完了まで約5か月を要した地域がありました。

必要な備えは、計算すれば数字で出ます。1日5回 × 家族の人数 × 7日。4人家族なら140回分です。

防災は、災害が起きてから始めるものではありません。今日、家族で人数を数えてみること。手元にある回数を確認してみること。その小さな一歩が、もしもの安心につながります。

非常用トイレ全般の知識は、非常用トイレ完全ガイドにまとめています。あわせてご覧ください。

IPIC SONAEは「防災を、『じぶんゴト』に。」を掲げ、日々の備えに役立つ情報を発信しています。

AUTHOR / SUPERVISOR

執筆・監修|防災士 山根

アイピック株式会社所属。2024年に防災士資格を取得。IPIC SONAEで展開してきた製品の開発にチームの一員として携わり、商品開発で得た実務的な知見と防災士としての知識をもとに、防災情報を執筆・監修しています。

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