非常用トイレを備蓄しないとどうなる?過去の災害事例から学ぶ

非常用トイレを備蓄しないとどうなるのかを過去の災害事例から解説したイメージ

防災用品を見直すとき、水や食料は思い浮かんでも、トイレは後回しになりがちです。「なんとかなるだろう」と考える方も少なくありません。

けれど過去の災害では、断水が数週間から数か月続いた地域がありました。この記事では、公的機関が公表した資料をもとに、非常用トイレを備えていなかった家庭で実際に何が起きたのかを整理します。読み終える頃には、ご家庭に必要な回数が具体的な数字で見えているはずです。

結論:断水が続けば、自宅のトイレは使えなくなる

非常用トイレを備えていない場合に最初に起こるのは、「自宅の水洗トイレが使えないのに、排泄は待ってくれない」という状況です。

水洗トイレは、上水道で水を流し、下水道で排泄物を運ぶ仕組みで成り立っています。どちらか一方でも止まれば、便器はあっても機能しません。しかも地震では、上水道と下水道が同時に被害を受けることがあります。

そして排泄は、水や食料と違って「量を減らして耐える」ことができません。成人が1日にトイレへ行く回数は、内閣府の広報資料で1人あたり5回程度が目安とされています。4人家族なら、1日で20回。これが翌日も、その翌日も続きます。

ポイント
停電だけでもトイレが使えなくなる建物があります。マンションのポンプ給水方式では、電気が止まると各階へ水が上がりません。集合住宅特有の注意点はマンションで断水したらトイレはどうする?で詳しく解説しています。

「避難所に行けばトイレがある」とは限らない

もうひとつ見落とされやすいのが、避難所のトイレも無条件では使えないという点です。避難所も同じ上下水道につながっているため、断水すれば同様に止まります。仮設トイレの到着にも時間がかかります。

近年は、自宅が無事なら自宅にとどまる「在宅避難」が推奨される場面も増えました。その場合、トイレは自分で用意するものになります。

過去の災害では、実際に何が起きたのか

ここからは、公的機関が公表した記録をもとに見ていきます。数字を知ると、必要な備蓄量の感覚がつかみやすくなります。

東日本大震災(2011年):仮設トイレが届くまで、平均以上に時間がかかった

厚生労働省の追跡調査によると、東日本大震災による断水は19都道県・264水道事業者で約257万戸にのぼりました。

問題は、その間のトイレです。内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」には、被災地の避難所に仮設トイレが行き渡るまでに要した日数の調査結果が掲載されています。

  • 3日以内と回答した自治体は34%
  • 残る約3分の2は4日以上を要した
  • 最も日数を要した自治体は65日

つまり、多くの地域で「発災から4日以上、自力でしのぐ必要があった」ということです。3日分の備えでは足りなかった可能性が高い、という示唆でもあります。

熊本地震(2016年):断水が2週間続いた市街地もあった

厚生労働省の資料によれば、熊本地震での断水は34市町村・445,857戸が最大値でした。熊本市全域で水道水が供給可能になったのは4月30日、被災地全域の復旧率が99.9%に達したのは5月20日です。

注目したいのは、被害が大きかった地域では建物が無事でも水だけが止まった、というケースが多かったことです。家は住める。けれどトイレは流せない。この「在宅避難でのトイレ問題」が広く認識されたのが熊本地震でした。

能登半島地震(2024年):応急復旧まで約5か月かかった地域があった

国土交通省の資料によると、令和6年能登半島地震では6県38事業者で最大約13.6万戸が断水しました。

特徴は、復旧までの期間です。石川県では、輪島市・珠洲市の建物倒壊地域等を除いて水道本管の応急復旧が完了したのは2024年5月31日。発災は1月1日ですから、およそ5か月です。浄水場そのものが被災し、道路の寸断で復旧作業も進みにくいという条件が重なりました。

災害 断水規模 復旧に関する記録
阪神・淡路大震災(1995年) 約130万戸 最大断水日数90日
東日本大震災(2011年) 約257万戸(19都道県) 仮設トイレが3日以内に行き渡った自治体は34%、最長65日
熊本地震(2016年) 445,857戸(34市町村) 被災地全域の復旧率99.9%は5月20日時点
能登半島地震(2024年) 最大約13.6万戸(6県38事業者) 石川県の水道本管応急復旧完了は5月31日(一部地域を除く)

共通しているのは、断水は「数日」ではなく「数週間から数か月」の単位で起こりうるという点です。

備えがない家庭で起こりやすい5つの問題

トイレが使えない状態が続くと、家庭内では次のような問題が連鎖的に起こります。内閣府のガイドラインでも指摘されている内容です。

1. 水分や食事を控えてしまう

内閣府のガイドラインは、トイレの使用がためらわれることで排泄を我慢し、それが水分や食品の摂取を控えることにつながると指摘しています。そして避難者の栄養状態の悪化や脱水症状、静脈血栓塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)などにつながりうる、とされています。

これは体力のある方でも起こります。健康への影響については災害時にトイレを我慢するとどうなる?で詳しく整理しています。

2. 便器に溜め続けてしまう

「流せないけれど、とりあえず使う」という判断は、時間が経つほど状況を悪くします。下水道が損傷している場合、無理に水を流すと汚水が逆流することもあります。地震直後にまず確認すべきことは地震でトイレが使えないときの対処法にまとめました。

3. 臭いが室内にこもる

密閉された室内で排泄物を保管すれば、臭いは必ず発生します。凝固剤や防臭袋の有無で、この差は大きく変わります。対策は非常用トイレの臭い対策で解説しています。

4. ごみとして出せない期間が続く

災害時はごみ収集も止まります。使用済みの袋を、収集再開まで自宅で保管することになります。保管方法と処分の考え方は非常用トイレの正しい処分方法を参考にしてください。

5. 家族の負担が偏る

小さなお子さん、高齢のご家族、体調のすぐれない方ほど、トイレを我慢することの負担が大きくなります。実際、災害時に困ったこととしてトイレは上位に挙げられ続けています。災害時に困ったことランキングもあわせてご覧ください。

どのくらい備えれば足りるのか

結論から言えば、1人あたり1週間分・35回分が現在の目安です。経済産業省は、災害用トイレの備蓄目安として1人当たり35回分/週を推奨しています。内閣府の広報資料でも、1日あたりのトイレ回数は1人5回程度とされています。

計算式はシンプルです。

必要回数の計算式
1日5回 × 家族の人数 × 備える日数

家族人数 1日分 3日分(最低ライン) 7日分(推奨)
1人 5回分 15回分 35回分
2人 10回分 30回分 70回分
3人 15回分 45回分 105回分
4人 20回分 60回分 140回分

この数字を見て「思ったより多い」と感じた方は、決して例外ではありません。日本トイレ協会が2023年に実施した調査では、災害用トイレを備蓄している世帯は約22%にとどまり、1人あたりの備蓄数は「0〜4回分」が36.9%で最多という結果でした。

3日分では足りない場面がある
東日本大震災では、仮設トイレが3日以内に行き渡った自治体は34%でした。3日分は「最低ライン」であり、余裕を持つなら7日分を目安にしてください。

備えるなら、どんな非常用トイレを選ぶか

回数が決まったら、次は中身です。同じ「非常用トイレ」でも、備蓄用として使いやすいかどうかは構成で変わります。確認したい項目を整理しました。

チェック項目 なぜ重要か 確認の目安
保存期間 買い替え頻度と管理の手間が変わる 長期保存タイプなら入れ替え回数を減らせる
凝固剤の性能 固まらないと持ち運びも保管も難しくなる 素材(高分子吸水ポリマー等)と1包あたりの量
防臭・抗菌 室内保管が前提になるため 消臭・抗菌機能の記載
処理袋の有無 使用済みの袋をまとめて保管するため 排泄袋とは別に処理袋が付属するか
使いやすさ 暗い中でも家族の誰もが使えるか 手順が3〜4ステップに収まるか
保管性 置き場所が確保できないと備蓄が続かない 箱サイズと収納場所の相性

選び方の考え方は非常用トイレの選び方、保存期間の考え方は非常用トイレの保存期間で詳しく解説しています。実際の使用手順は非常用トイレの使い方をご覧ください。

今日からできる備え

すべてを一度に揃える必要はありません。まずは現状を把握するところからで大丈夫です。

  • 家族の人数を数える:同居している人数を書き出します
  • 必要回数を計算する:1日5回 × 人数 × 7日で、目標回数が出ます
  • 今ある回数を確認する:手持ちの非常用トイレの回数を数え、不足分を把握します
  • 保管場所を決める:トイレ付近や玄関収納など、断水時にすぐ取り出せる場所へ
  • 使い方を家族で共有する:一度、封を開けずに手順を読み合わせておきます
  • ごみ収集が止まる前提で保管場所も決めておく:ベランダなど、屋外に近い場所が候補になります

ご家族の人数に合った備えを

1人1週間分は35回分が目安です。IPIC SONAEでは、長期保存に対応した非常用トイレをご用意しています。ご家庭の人数から必要な回数を確認してみてください。

非常用トイレを見る

よくある質問

Q. 非常用トイレがなくても、何とかなりませんか?

ポリ袋と新聞紙で代用する方法は知られていますが、凝固しないため液体のまま保管することになり、臭いや漏れのリスクが残ります。緊急時の応急手段としては有効ですが、数日以上続く断水を前提とするなら、凝固剤と処理袋がセットになった非常用トイレを備えておくほうが現実的です。

Q. 断水していても、水を汲んでくれば流せますか?

下水道や排水管が損傷している場合、水を流すと汚水が逆流したり、階下へ漏れたりする恐れがあります。地震のあとは、自治体や管理会社から下水道の使用可否について案内が出るまで、水を流す判断は控えてください。判断の手順は地震でトイレが使えないときの対処法にまとめています。

Q. 携帯トイレは何回分あればいいですか?

経済産業省は1人あたり35回分/週を推奨しています。4人家族なら140回分が7日分の目安です。まず3日分(4人家族で60回分)を確保し、そこから積み増していく進め方でも構いません。

Q. 避難所に行けばトイレはありますか?

避難所のトイレも上下水道につながっているため、断水すれば同じように使えなくなります。東日本大震災では、仮設トイレが避難所に行き渡るまでに4日以上を要した自治体が約3分の2にのぼりました。避難所に行く場合でも、携帯トイレを持参しておくと安心です。

Q. 非常用トイレは何年くらい保存できますか?

製品によって異なり、5年程度のものから15年程度のものまであります。凝固剤の劣化を防ぐため、直射日光と湿気を避けた場所での保管が前提です。詳しくは非常用トイレの保存期間をご確認ください。

Q. マンションでも備蓄は必要ですか?

必要です。むしろ集合住宅のほうが、停電によるポンプ停止や排水管の被害など、トイレが使えなくなる要因が多くなります。詳しくはマンションで断水したらトイレはどうする?をご覧ください。

Q. 備蓄したあと、何を確認しておけばいいですか?

保管場所を家族全員が知っていること、そして使い方を一度読んでおくことの2点です。暗く不安な状況では、説明書を読む余裕がありません。事前の一度の確認が、当日の落ち着きにつながります。

まとめ

非常用トイレを備蓄していない場合、断水が起きた時点で「排泄という毎日必ず起こることに、行き場がなくなる」という状況になります。

過去の災害の記録は、断水が数週間から数か月に及びうることを示しています。東日本大震災では仮設トイレが3日以内に行き渡った自治体は34%、能登半島地震では水道本管の応急復旧完了まで約5か月を要した地域がありました。

必要な備えは、計算すれば数字で出ます。1日5回 × 家族の人数 × 7日。4人家族なら140回分です。

防災は、災害が起きてから始めるものではありません。今日、家族で人数を数えてみること。手元にある回数を確認してみること。その小さな一歩が、もしもの安心につながります。

非常用トイレ全般の知識は、非常用トイレ完全ガイドにまとめています。あわせてご覧ください。

IPIC SONAEは、防災を、「じぶんゴト」に。という思想のもと、日々の備えを応援しています。

参考情報

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