災害時に本当に困ったことランキング|避難所・在宅避難の調査から学ぶ備え
災害後の困りごとは、災害の種類、避難場所、地域、調査対象によって異なります。トイレ、水、食料、情報、電気、プライバシーなど、生活を支える複数の課題が生じます。命が助かったあとの毎日を、どう乗り切るか。そこで効いてくるのが、事前の備えです。
この記事では、公的機関の報告や被災者アンケートをもとに、災害時に実際に困ったことをランキング形式で整理しました。「なぜ困ったのか」「どう備えればよいのか」まで、避難所と在宅避難の両面から分かりやすく解説します。読み終えるころには、今日から何を見直せばよいかがはっきりします。少しずつ、一緒に備えていきましょう。
この記事で分かること
- 被災者が実際に困ったことのランキングと、その理由
- 災害時にトイレ問題が毎回上位になる背景
- 避難所と在宅避難、それぞれで困ることの違い
- 「備えてよかったもの」「後悔した備え不足」の傾向
- 発災から1週間で困りごとがどう変化するか
- 今日から見直せる備蓄チェックリストと、非常用トイレの必要数
「困ったこと」は調査ごとに分けて読む
災害時の困りごとは、調査対象・避難形態・災害の種類によって変わります。そのため、複数の調査を組み合わせて「総合1位〜8位」を作ると、元の調査には存在しない順位になってしまいます。
たとえば、元記事で引用していた2019年の民間調査では、避難所での宿泊経験者を対象とした設問で「トイレ」が59.4%とされています。一方、この結果だけで「災害時に最も困ることは全国共通でトイレ」と一般化することはできません。
この記事での「ランキング」の扱い
外部調査に順位がある場合は、その調査の対象・年・設問とセットで紹介します。異なる調査を合成した独自順位は作りません。
公的資料では、内閣府が避難所のトイレについて、必要数だけでなく衛生、安全、プライバシー、要配慮者への対応などを含めた確保・管理を求めています。また経済産業省は、家庭で災害時用トイレを1人35回分/週備蓄するよう案内しています。
なぜ災害時のトイレ対策が重要なのか
トイレ対策が重要なのは、排泄が継続する一方で、断水・排水設備の損傷・建物設備の停止などにより、水洗トイレを通常どおり使用できない場合があるためです。
- 家庭でも使用できなくなる場合がある:給水だけでなく、排水設備の安全確認も必要です。
- 避難所でも確保に時間を要した事例がある:東日本大震災の29自治体調査では、仮設トイレが行き渡るまで3日以内34%、4日以上66%、最長65日でした。
- 使用後の管理も必要:便袋の密閉、一時保管、自治体の回収方法まで考えておく必要があります。
- トイレを避けるための過度な飲食制限は避ける:内閣府は、トイレの使用をためらうことで水分や食品の摂取を控え、健康への影響につながる可能性を指摘しています。
なお、健康への影響には複数の要因があります。個別災害の災害関連死をトイレ問題だけに結びつけることはできません。詳しくは災害時にトイレを我慢するとどうなる?で整理します。
避難所で実際に困ったこと
避難所では、トイレの「数の少なさ」と「衛生環境」が特に大きな困りごとになります。限られた設備を大人数で使うため、平常時には想像しにくい問題が次々と起こります。
前述のアンケートでは、避難所のトイレで困ったこととして「トイレの数が少ない」が81.5%、「清潔ではない」が62.6%を占めました。具体的には、次のような声が挙がっています。
| 困ったこと | 状況 | 影響 |
|---|---|---|
| トイレ待ちの行列 | 数が足りず、使うまでに時間がかかる | 我慢につながり、体調に影響 |
| 臭い・不衛生 | 清掃が追いつかず、汚れや臭いがこもる | 利用をためらい、感染リスクも |
| プライバシーの不足 | 仕切りが少なく、周囲の目が気になる | 心理的な負担が大きい |
| 女性・子どもの不安 | 男女共用や、人目につく配置 | 利用回数を減らしがちになる |
| 夜間の利用 | 屋外や暗い場所での利用が怖い | 夜間の我慢や転倒のリスク |
| 洋式の不足 | 和式が多く、高齢者が使いにくい | 足腰への負担、利用回避 |
こうした困りごとは、避難所の運営努力だけでは解決しきれません。だからこそ、各家庭で携帯トイレを持ち出せるよう備えておくことが、自分と家族を守る現実的な一手になります。
在宅避難でも困ること
自宅が無事でも、ライフラインが止まれば在宅避難には多くの困りごとが生じます。そして、その中心もやはりトイレです。「家にいられるから安心」とは限らない点を押さえておきましょう。
在宅避難で起こりやすい困りごとには、次のようなものがあります。
- 断水:飲料水だけでなく、トイレを流す水や手洗い・掃除の生活用水も不足します。
- 停電:照明・冷暖房・情報機器が使えず、夜間の生活が難しくなります。
- 生活用水の確保:復旧まで、限られた水をやりくりする必要があります。
- ゴミの処理:収集が止まると、使用済みの衛生用品やトイレのゴミがたまります。
- トイレ:断水・下水損傷で水洗が使えず、非常用トイレが欠かせません。
- 情報不足:復旧の見通しや給水拠点の情報が届きにくくなります。
特にマンションでは、たとえ自宅の給水が復旧しても、排水管や下水道の安全が確認できないうちは流さないのが原則です。判断の手順は、マンションで断水したらトイレは流せる?で詳しく解説しています。
在宅避難を続けられるかどうかは、「トイレを使える状態に保てるか」に大きく左右されます。人数分・日数分の非常用トイレをそろえておくことは、在宅避難という選択肢そのものを守ることになります。
家庭備蓄はライフライン停止を想定して組み合わせる
「備えてよかったもの」の独自ランキングを作るのではなく、止まる可能性のある機能ごとに備えを確認します。
| 想定する状況 | 確認する備え |
|---|---|
| 水洗トイレを使えない | 災害時用トイレ、処理袋、使用済み便袋の一時保管方法 |
| 断水 | 飲料水、給水用品、生活用水の確保方法 |
| 停電 | 照明、モバイルバッテリー、乾電池など |
| 物流・調理環境の制約 | 家庭に合った食料備蓄、調理手段 |
| 通信・情報取得の制約 | 複数の情報取得手段、充電手段 |
| 衛生環境の変化 | 手指衛生用品、生理用品、口腔ケア用品など |
家庭ごとに不足している備えを確認する
必要な備蓄は、家族構成、住宅、地域の災害リスクによって異なります。ランキングをそのまま買い物リストにするのではなく、自宅で「使えなくなるもの」と「代替手段」を対応させて確認してください。
避難所と在宅避難の違い
避難所と在宅避難では、困ることも必要な備えも異なります。どちらになっても対応できるよう、両面で備えておくのが理想です。
主な項目を比較しました。ご家庭の住まいや家族構成に合わせて、どちらの可能性が高いかを考えてみましょう。
| 比較項目 | 避難所 | 在宅避難 |
|---|---|---|
| トイレ | 数が不足し、行列・衛生悪化が起きやすい | 断水・下水損傷で水洗が使えず、非常用トイレが必須 |
| 水 | 配給があるが、量やタイミングは不確実 | 自宅の備蓄と給水拠点に頼る |
| 食事 | 配給中心。届くまで時間がかかることも | 自宅の備蓄・ローリングストックが中心 |
| 睡眠 | 硬い床・騒音・大人数で眠りにくい | 自宅の寝具を使え、比較的落ち着ける |
| プライバシー | 仕切りが少なく、確保が難しい | 自宅のため、確保しやすい |
| 感染症リスク | 密集により高まりやすい | 比較的抑えやすいが、衛生管理は必要 |
| 備えておくべきもの | 携帯トイレ、衛生用品、簡易マット、耳栓など | 非常用トイレ、水、食料、電源、生活用水など |
どちらの避難でも、非常用トイレは共通して必要になります。「避難所に行くから不要」とは考えず、まず家庭に備えておくことが安心につながります。
困りごとは時間だけでは一律に決まらない
発災後の課題は、時間経過だけでなく、災害の種類、被害状況、季節、避難場所、家族構成によって変わります。「24時間後はトイレ、48時間後は食料」のように固定的に考えないことが重要です。
| 確認する場面 | 主な確認事項 |
|---|---|
| 発災直後 | 身の安全、避難情報、火災・浸水等の周辺リスク |
| 生活を継続するとき | 水、食料、トイレ、照明、情報・通信手段 |
| ライフライン停止が続くとき | 備蓄残量、衛生、使用済みごみの管理、支援情報 |
| 避難生活が長期化するとき | 健康状態、服薬、要配慮者への支援、生活環境の見直し |
トイレは発災後の早い段階から必要になります。経済産業省は、成人の平均排泄回数を1日5回とし、1人あたり5回×7日=35回分/週を案内しています。
今すぐ見直したい防災備蓄チェックリスト
備えは、まず「今あるもの」を数えることから始まります。次のリストで、ご家庭の備蓄を点検してみましょう。足りないものが見つかったら、優先度の高いものから少しずつ買い足せば十分です。
- 非常用トイレ(1日5回×人数×備蓄日数で確認)
- 飲料水(1人1日3Lを目安に)
- 非常食(調理不要・長期保存のもの)
- モバイルバッテリー(充電済みか)
- ライト・ランタン(電池の残量も確認)
- ラジオ(手回し・電池式)
- 衛生用品(ウェットシート・生理用品・口腔ケア)
- 常備薬・お薬手帳のコピー
- 現金(小銭を含む)
- ゴミ袋・防臭袋(使用済みトイレの保管用)
すべてを一度にそろえる必要はありません。まずはチェックが付かなかった項目から、暮らしに合わせて備えていきましょう。
非常用トイレは何回分必要?
非常用トイレの目安は、1人あたり1日約5回。1人あたり5回×7日=35回分/週が案内されています。これは経済産業省が呼びかけている備蓄量です。
必要数は、次のシンプルな計算式で求められます。
1日5回 × 家族の人数 × 備える日数 = 必要回数
たとえば4人家族が1週間分を備える場合は、5 × 4 × 7 で140回分です。ご家庭の人数に近い行を目安にしてください。
| 家族人数 | 3日分 | 7日分 |
|---|---|---|
| 1人 | 15回分 | 35回分 |
| 2人 | 30回分 | 70回分 |
| 3人 | 45回分 | 105回分 |
| 4人 | 60回分 | 140回分 |
| 5人 | 75回分 | 175回分 |
現在の備蓄数と35回分/週の基準との差を確認し、不足分を計画的に追加してください。種類の違いや選び方、使い方は非常用トイレ完全ガイドで詳しく解説しています。実際の手順は非常用トイレの使い方、使用後の処理は非常用トイレの処分方法、長期保管の考え方は非常用トイレの保存期間もあわせてご覧ください。
家族の人数と想定日数から必要回数を計算し、暮らしになじむ非常用トイレから始めてみませんか。凝固剤・排泄袋の内容や保存期間、保管場所もあわせて確認しておくと安心です。
よくある質問(FAQ)
避難所に行けばトイレはありますか?
避難所にもトイレはありますが、数が不足しがちです。仮設トイレの設置に数日かかった過去の事例もあり、清潔さやプライバシーの面でも困りごとが起きやすいのが実情です。各家庭で携帯トイレを備えておくと安心です。
災害時、トイレの水はそのまま流せますか?
断水していれば流せません。また、地震などで下水管が損傷している場合は、水があっても流すと逆流のおそれがあります。安全が確認できるまでは、非常用トイレに切り替えるのが基本です。
在宅避難でも非常用トイレは必要ですか?
必要です。自宅が無事でも、断水や下水損傷で水洗トイレが使えなくなることがあります。在宅避難を続けるうえで、非常用トイレは欠かせない備えです。
非常用トイレは何回分備えればよいですか?
1人1日約5回を目安に、1人あたり5回×7日=35回分/週が案内されています。4人家族の1週間分なら140回分が目安です。
簡易トイレと携帯トイレの違いは何ですか?
携帯トイレは既存の便器にかぶせて使う袋タイプ、簡易トイレは組立式の便座までセットになったタイプです。便器が使えるかどうかで使い分けます。
使用後のトイレはどう処分しますか?
使用済み便袋の分別・回収方法は自治体によって異なります。お住まいの自治体の案内に従ってください。詳しくは非常用トイレの処分方法をご覧ください。
非常用トイレの保存期間はどのくらいですか?
保存期間・期限の起点・保管条件は製品によって異なります。パッケージやメーカー公式情報を確認してください。
凝固剤は何年くらい使えますか?
凝固剤も製品ごとに保存期間が定められています。製品表示の保存期間・期限の起点・保管条件を確認してください。
まとめ
災害時には、トイレを含む複数の生活課題が生じます。断水すると真っ先に使えなくなり、我慢がきかず、避難所でも在宅避難でも不足しやすい——。だからこそ、非常用トイレは「後回し」ではなく、防災対策のなかでも優先度の高い備えといえます。
被災してから後悔しないために、できることは今日から始められます。家族の人数を数えて必要回数を計算してみること。備えをひとつ、暮らしに置いてみること。その小さな一歩の積み重ねが、いつもの暮らしを守る力になります。
防災は、災害が起きてから始めるものではありません。今日、家族で話してみること。備えを一つ見直してみること。防災を、『じぶんゴト』に。IPIC SONAEは、あなたと家族の毎日の備えを、これからも応援しています。
AUTHOR / SUPERVISOR
執筆・監修|防災士 山根
アイピック株式会社所属。2024年に防災士資格を取得。IPIC SONAEで展開してきた製品の開発にチームの一員として携わり、商品開発で得た実務的な知見と防災士としての知識をもとに、防災情報を執筆・監修しています。
参考情報
- 内閣府(防災担当)「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」(令和6年12月改定)
- 経済産業省「トイレ備蓄 忘れていませんか」
- 国土交通省「災害時のトイレ、どうする?」
- 厚生労働省(避難生活と健康、エコノミークラス症候群の予防に関する情報)
- 消防庁(家庭での備蓄・非常持ち出し品に関する啓発情報)
- 日本トイレ研究所(災害時のトイレ・衛生に関する情報)
- 日本赤十字社(災害時の衛生管理・こころのケアに関する情報)
- 大正大学 岡山朋子氏「熊本地震 避難生活におけるトイレに関するアンケート」
- 株式会社ネオマーケティング「災害時の避難所に関する調査」(2019年・回答500名)