高齢者のための非常用トイレの選び方|介護にも配慮した備えとは
大きな地震や台風で断水が起きると、普段は当たり前に使えていたトイレが、ある日突然使えなくなることがあります。とくに高齢のご家族や、介護が必要な方がいるご家庭では、このトイレの問題が想像以上に大きな負担になりがちです。
「夜中にトイレへ行くのが心配」「なるべく水分を控えて我慢してしまう」。そんな声は、過去の災害でも数多く聞かれてきました。この記事では、内閣府などの公的情報をもとに、高齢者・介護に配慮した非常用トイレの選び方と備え方を、やさしく整理します。今日から見直せる備えの一歩として、お役立てください。
結論:年齢ではなく「普段の排泄動作」に合わせて備える
先に結論からお伝えします。高齢のご家族や介護が必要な方がいるご家庭では、普段の排泄姿勢・移動方法・介助の有無に合う方法を選び、本人の普段の排泄回数も踏まえて必要数を決めることが大切です。
理由はシンプルです。災害時は断水で水洗トイレが使えなくなり、避難所や仮設トイレまでの移動、和式の便器や段差などが、足腰への負担になりやすいからです。実際に内閣府の「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」でも、和式の便器は足腰の弱い高齢者や車いすの方にとって使いにくいと指摘されています。
だからこそ、避難所に頼りきりにするのではなく、住み慣れた自宅で使える非常用トイレをあらかじめ用意しておくことが、高齢者世帯の安心につながります。非常用トイレそのものの基礎知識は、非常用トイレ完全ガイドと非常用トイレの選び方もあわせてご覧ください。この記事では、そのうえで「高齢者・介護」という視点にしぼって解説します。
この記事の要点
①本人が使えるか ②安全に移動・立ち座りできるか ③介助者が扱えるか ④本人の普段の排泄回数に対して必要数が足りるか、を確認します。
災害時に高齢者がトイレで困りやすい理由
なぜ、高齢の方ほど災害時のトイレで困りやすいのでしょうか。まずは起こりがちな困りごとを整理しておきましょう。理由が分かると、必要な備えも見えてきます。
断水で、普段のトイレが使えなくなる
断水や排水設備の損傷等が起きると、水洗トイレを通常どおり使えない場合があります。マンションでは、配管の点検が終わるまで使用を控えるよう求められることもあります。在宅避難でのトイレ対策は、在宅避難で必要なトイレ対策でも詳しくまとめています。まずは「水が止まると、いつものトイレは使えない」という前提を家族で共有しておくことが第一歩です。
トイレまでの移動や、和式・段差が負担になる
避難所や屋外の仮設トイレは、自宅から距離があったり、段差や和式の便器が多かったりします。足腰に不安のある方にとっては、この移動と動作そのものが大きな負担です。使い慣れた洋式の便座に袋をかぶせて使える非常用トイレなら、こうした負担を和らげられます。
夜間は、暗さと段差で転倒のリスクが高まる
停電が重なると、夜間のトイレはさらに危険になります。暗い廊下での移動は、つまずきや転倒につながりかねません。自宅内の使い慣れた場所で用を足せる備えと、手元を照らす明かりをセットで用意しておくと安心です。
水分や食事を控えてしまい、体調を崩しやすい
「トイレに行きたくないから」と水分や食事を控えてしまうと、体調不良につながることがあります。内閣府のガイドラインでも、トイレの使用がためらわれることで排泄を我慢し、水分や食品の摂取を控えてしまう点が課題として挙げられています。使いやすいトイレを備えておくことは、我慢を減らし、体調を守ることにもつながります。
ポイント
「トイレを我慢しない環境づくり」は、高齢者の体調管理そのものです。安心して使えるトイレがあることが、水分・食事をきちんととることを支えます。
介護する家族も、疲れやすくなる
災害時は、介護をするご家族の負担も一気に増えます。処理に手間がかかったり、においがこもったりすると、心身の疲れはさらに大きくなります。「介護する人の負担をどれだけ減らせるか」も、非常用トイレを選ぶうえで見落とせない視点です。
「移動・立ち座り・介助」の3点を先に確認する
高齢者向けの備えは、年齢ではなく本人の普段の排泄動作から考えます。自力でトイレまで移動できるか、便座への立ち座りに支えが必要か、夜間に介助が必要か、使用済み便袋の処理を誰が行うかを確認してください。
- 移動:寝室・居室から使用場所までの動線に障害物がないか
- 立ち座り:普段使用している手すりや補助具を災害時にも使えるか
- 照明:停電時にも足元と手元を確認できるか
- 介助:介助者が便袋の設置・交換・一時保管まで対応できるか
- 代替便座:既存便器が使えない場合、本人の身体状況に合うポータブル・簡易トイレ等があるか
高齢者向け非常用トイレを選ぶ7つのポイント
ここからは、高齢者・介護世帯の視点で「どこを見て選べばよいか」を7つの軸で整理します。一般的な選び方の詳細は非常用トイレの選び方にゆずり、ここでは高齢者世帯で特に重要になる点にしぼります。
| 選ぶポイント | 高齢者・介護世帯で重要な理由 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 使いやすさ | 力が弱くても迷わず使えることが大切 | 袋をかぶせて凝固剤を入れるだけなど、手順が少ないか |
| 設置の簡単さ | 介助する家族の手間を減らせる | 使い慣れた洋式便座やポータブルトイレに取り付けられるか |
| 臭い対策 | においは体調・食欲・気力に影響しやすい | 消臭・抗菌の機能があるか(詳しくは臭い対策の記事へ) |
| 凝固性能 | しっかり固まると漏れや不快感が減る | 水分を素早く固めるか、固まりが安定しているか |
| 処理のしやすさ | 後片付けの負担が介護者の疲れに直結する | 口を縛って捨てるだけなど、処理袋が付いているか |
| 保管性 | 取り出しやすい場所に無理なく置けるか | コンパクトにまとまり、家族が置き場所を把握できるか |
| 長期保存 | 買い替えの手間なく、いざという時に使える | 長く保存できるか(保存期間の目安を確認) |
凝固剤の役割がよく分からないという方は、凝固剤とは?もあわせてご覧ください。においが気になる場合の工夫は、非常用トイレの臭い対策で具体的に紹介しています。
介護にも配慮した備え:あわせて用意したいもの
非常用トイレ本体だけでなく、衛生用品をセットで備えておくと、介護する側・される側の双方が安心して過ごせます。内閣府のガイドラインでも、手袋やウェットティッシュ、消毒用アルコールなどが衛生管理に必要な備品として示されています。次のものを、非常用トイレと同じ場所にまとめておきましょう。
- 使い捨て手袋:排泄物にふれずに処理でき、介助時の衛生を保ちやすくなります。
- ウェットティッシュ:断水で手が洗えないときの清拭に。体をふくのにも使えます。
- 消臭袋・防臭袋:使用後の袋を入れると、においがこもりにくくなります。
- アルコール除菌:手指や便座まわりの清潔を保ちやすくなります。
- ポータブルトイレとの併用:普段使用するポータブルトイレへ便袋等を組み合わせる場合は、双方の製品の使用方法・適合を事前に確認します。
- 夜間用ライト:停電時の移動と使用を安全にします。手元を照らせる小型ライトが便利です。
衛生面の注意
使用後の袋は口をしっかり縛り、手袋を外したあとは可能な範囲で手指を清潔にしましょう。断水時の手指衛生は、使用する衛生用品の説明に従ってください。処理の手順は非常用トイレの使い方もご確認ください。
家族は何回分を備蓄すればいい?
備蓄の目安は、1人あたり1日およそ5回で計算すると分かりやすくなります。これに家族の人数と日数をかけると、必要な回数が見えてきます。経済産業省は成人の平均排泄回数を1日5回とし、1人35回分/週を案内しています。
計算式は「1日5回 × 人数 × 日数」。たとえば4人家族の1週間分なら、5×4×7で140回分が目安になります。人数別の早見表は次のとおりです。
| 家族の人数 | 3日分 | 7日分 |
|---|---|---|
| 1人 | 15回分 | 35回分 |
| 2人 | 30回分 | 70回分 |
| 3人 | 45回分 | 105回分 |
| 4人 | 60回分 | 140回分 |
必要回数は本人の普段の排泄回数で調整
年齢だけを理由に一律で1〜2割増やす必要はありません。1日5回を計算基準にしつつ、本人が普段1日に何回トイレを利用しているかを確認し、実態に合わせて必要数を調整してください。
回数の考え方は非常用トイレは何回分必要?、まとめ買いした場合の使える日数は非常用トイレ120回分は何日使える?で詳しく解説しています。備えたあとの置き場所は、非常用トイレの保管場所も参考にしてください。
「トイレのミカタ」の仕様を確認
高齢者向けの専用品ではありません。本人・介助者が使用できるかを判断するため、IPIC SONAE「トイレのミカタ」の仕様を確認します。
公式の使用手順
公式商品ページでは、排泄袋を便座に設置し、凝固剤を入れてから使用する手順が案内されています。本人または介助者が平常時に手順を確認しておくことが重要です。
消臭・抗菌機能
公式商品ページでは、医師・防災士監修、消臭・抗菌機能付きとして案内されています。機能だけに頼らず、使用後の便袋の密閉・一時保管方法も確認してください。
排泄袋・処理袋をセット
使用後は付属の処理袋にまとめられるので、後片付けの手間を減らせます。介護の場面では、この「処理のしやすさ」が毎回の負担を大きく左右します。処分の考え方は非常用トイレの処分方法もご確認ください。
長期保存で、備蓄向き
保存期間は製品表示・IPIC SONAEの最新案内を確認し、公式の保管条件に従ってください。
よくある質問
Q. 高齢者でも簡単に使えますか?
使い方は、袋を便座にかぶせて凝固剤を入れるだけと手順が少なく、力が弱い方でも扱いやすい設計です。ご不安な場合は、平時に一度、家族で使い方を確認しておくとより安心です。
Q. 介護用のポータブルトイレにも使えますか?
ふだんお使いのポータブルトイレに排泄袋をかぶせて併用できます。慣れた姿勢のまま使えるため、負担を和らげやすくなります。ご使用のトイレの形状に合うかは、事前にご確認ください。
Q. どれくらい備蓄すれば安心ですか?
1人1日5回を目安に、3日分、できれば1週間分が目安です。高齢の方は使用回数が増えやすいため、目安より1〜2割多めに備えておくと安心です。
Q. においは抑えられますか?
トイレのミカタは消臭・抗菌機能付きで、水分を固めることでにおいの漏れを抑えます。消臭袋を併用すると、保管中のにおい対策にも役立ちます。
Q. 使用後の処分方法は?
使用後の袋は口をしっかり縛り、お住まいの自治体のルールに従って処理してください。分別・回収方法は自治体によって異なるため、災害時の最新案内を確認してください。
Q. 使用期限(保存期間)はありますか?
トイレのミカタは15年保存に対応しています。直射日光や湿気を避けて保管し、定期的に置き場所と数量を家族で見直すと安心です。
Q. 夜間に使うとき、気をつけることはありますか?
停電時は足元が見えにくく、転倒の危険が高まります。手元を照らせるライトを一緒に備え、使う場所をあらかじめ決めておくと安全です。
まとめ
高齢のご家族や介護が必要な方にとって、災害時のトイレは体調や気持ちを大きく左右する問題です。だからこそ、本人・介助者が使いやすく、普段の排泄回数に対して必要数を確保した非常用トイレを、平時のうちに選んでおくことが大切です。
あわせて、手袋・ウェットティッシュ・消臭袋・ライトなどをまとめて用意しておけば、介護する側の負担もやわらぎます。今日はまず、ご家庭の備蓄数を数えて、家族で置き場所を共有することから始めてみませんか。
防災は、災害が起きてから始めるものではありません。その小さな一歩の積み重ねが、もしもの安心につながります。防災を、少しずつ「じぶんゴト」に。IPIC SONAEは、そんな日々の備えを応援しています。
AUTHOR / SUPERVISOR
執筆・監修|防災士 山根
アイピック株式会社所属。2024年に防災士資格を取得。IPIC SONAEで展開してきた製品の開発にチームの一員として携わり、商品開発で得た実務的な知見と防災士としての知識をもとに、防災情報を執筆・監修しています。